Mike's Blog

これまで読んできた本を引用を含めて紹介します。 Introducing books I have read including citation http://www.arsvi.com/w/km18.htm

室井尚『文系学部解体』を読んで

 

文系学部解体 (角川新書)

文系学部解体 (角川新書)

 

 大学関係者の必読書です。以下に重要と思われる箇所を引用します。

・二〇一五年六月八日付で、文部科学省は全国の国立大学に対して「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」という通達を行った…まとめると、

 ・文部科学大臣が国立大学に対してその組織・業務全般にかかる見直しを直接提示し、

 ・各大学の第三期中期目標・中期計画期間において「自らの強み・特色や高い到達目標・実現手段・検証指標を明示した戦略性が高く意欲的な」目標・計画を設定することを要請したものであり、

 ・この要請に従った大学には優先的に予算配分を行う

というものであった…この要請の具体的な中身は国立大学に関しては以下の八項目にまとめられている。

1.「ミッションの再定義」を踏まえた組織改革

2.各地域における知の拠点としての社会貢献・地域貢献の推進

3.国境を越えた教育連携・共同研究の実施や学生の交流等、グローバル化の推進

4.学長等を補佐する体制の強化等、ガバナンス改革の充実

5.年俸制・混合給与の積極的な導入など人事・給与システム改革の推進

6.法令遵守体制の充実と研究の健全化

7.アクティブ・ラーニングの導入等、大学教育の質的転換

8.多面的・総合的な入学者選抜への転換(p.18-19)

・「日本学術会議」の幹事会による…声明の中では「人文社会科学には独自の役割に加え、自然科学との連携によって世界の課題解決に向かうという役割が託されて」おり、人文社会科学のみを取り出して「組織の廃止や社会的要請への高い分野への転換」を求めるという今回の決定には「大きな疑問がある」とはっきり文科省を批判している。(p.25-26)

国立大学法人になってから、執行部や部局長のみならず一般教員までもが…中期目標・計画や年度計画の策定、自己評価などに関わらざるをえなくなった。それ以外にも外部資金を獲得しなくてはならないため、科研費申請はもちろんのこと…文科省や外部の財団が募集するさまざまなプロジェクトに応募するためにも膨大な申請書を作成しなくてはならなくなり、一年を通してこうした書類作りに忙殺されるようになった。当然のことながら、教育・研究にかける時間が大幅に減っていくことになる。(p.67-68)

・…「21世紀の大学像」答申…大学は以下の六類型に分けられている。

①総合的な教養教育の提供を重視する大学

②専門的な職業能力の育成に力点を置く大学

③地域社会への生涯学習機会の提供に力を注ぐ大学

④最先端の研究を志向する大学

⑤学部中心の大学

⑥大学院中心の大学(p.95-96)

・私はいまここで、「いや、人文科学は役に立つのだ」という話をしたいわけではない…いますぐに役に立たなくても、人生において、社会において…人文的な知、文学や哲学や歴史学に触れ、自らの頭で考えてみるという機会はできるだけ多くの人に、しかも若いうちに持ってもらいたいと思っている。文系の学問というのは、ただ単に英語力をつけると有利というような話だけではないのだ。(p.107-108)

・教養教育やリベラルアーツ教育が大切だというのは、それらの一つ一つの科目が、その人が普通に考えてきた人生を生き抜くのに役に立つとか、豊かにするからではない。そうではなくて、さまざまな考え方を学ぶことで、自分がそれまで自由に考えてはいなかったこと、さまざまなイデオロギーや因襲に縛られていたということに対する「自覚」や「気づき」を与えてくれるから大切なのである。(p.121)

・大綱化以降、「大学院重点化」の流れが進み、文学部系でいえば私たちの時代の一〇倍以上の大学院生が生まれた。何でこんなことをしたのかといえば、欧米諸国と比べて博士号を持っている人数が少ないので、国際競争力を強めるためには博士号取得者を増やさなくてはならないという政策がとられたからである。(p.138)

デリダもカントと同じように、大学は問題を提起したり、命題を提示したりするための自由をもたなくてはならないと考えている。そして、そのような役割を果たすことこそが「人文学」の使命なのである…人文学を活かすためには…国家の施策や方針に対して自由に批判したり、問題設定そのものを問い直したりするような自由な知性の場所を大学に確保しなくてはならない。そうしたきわめて重要な役割を担っているのが人文学なのである。(p.152-153)

・大学に本当に必要なのは「差異」と「多様性」である。自分とは異なる価値観や世界観、過去や遠い地域の文明や文化、人間の知性の奥深さや広がりを学ぶことによって、私たちは自分たちがいまどういう世界の中に生きているのかをよりよく知ることができる。そして、よりよく知るとは、つまりは人間としてよりよく生きるということでもある。(p.203)