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Mike's Blog

これまで読んできた本を引用を含めて紹介します。 Introducing books I have read including citation http://www.arsvi.com/w/km18.htm

三浦有紀子・仙石慎太郎『博士号を取る時に考えること取った後できること――生命科学を学んだ人の人生設計』を読んで

 

博士号を取る時に考えること取った後できること―生命科学を学んだ人の人生設計

博士号を取る時に考えること取った後できること―生命科学を学んだ人の人生設計

 

研究者を目指される方におすすめの一冊。以下に重要と思われる箇所を引用します。

・修士課程の教育とは、文字通り、特定の専門的知識やスキルを習得(マスター)することが目的である…対して博士課程はどうか…集約すれば、研究者として独り立ちするのに必要な能力の教育ということになろう…具体的な能力としては、その研究分野におけるコアな課題を見抜いて自らの研究方針や研究計画に落とし込む戦略的思考力、日々の研究活動において発生した課題を克服する問題解決力、議論や発表を通じて研究内容を磨き上げるコミュニケーション能力、求められた期限内に求められるアウトプットを提供するプロジェクト・マネジメント力、後輩学生やテクニシャンを活用する人的マネジメント能力、必要な研究資金やリソースを調達してくる調達力、などである…このような訓練は、研究者が自律的に活動を営むのに欠くことのできない能力を身につけさせるものであり、その意味で単なる職業教育を超えた職業「人」、すなわちプロフェッショナル教育といえる。逆にこのような厳しい教育を受けたからこそ、博士号取得者は年齢や経験に関係なく、グローバルな研究者集団において一人前の研究者として周囲からみなされ、社会からも相応のリスペクトがおかれるのである。(p.8-9)

・…専任のプロフェッサー・ポジション(教授および准教授)にでも就かない限り、研究職や大学教員という職業は実に不安定ということだ…したがって、研究職を志すのであれば、自分で自分のキャリアを築く覚悟、いつ何時でも自立できるスキルを、博士課程のころから磨いておく必要がある。(p.11)

・まず第一に、研究者は職の不安定さを当然のものと受け止めなければならない。研究職とは人頼みではない、「芸が身を助く」世界なのである。そのためには、3~4年間の博士課程教育のなかで、単なる実験スキルの習得ではない、独り立ちするのに必要なプロフェッショナル・スキルと戦略眼を身につけ、自己防衛するのが結局のところ最も安全な道である。(p.13)

・重要なのは、大学院生活を通じて、自分が本当にサイエンスの研究に向いているのか、やっていく気があるのか、その場合何が足りないか、ほかに適性や素養を発揮できる分野はないか、常に謙虚に自問自答のうえ、情報収集を怠らないことである。(p.21)

・戦略の定義は専門家によりさまざまだが、最も一般的な説明は、「持続的な優位性をもって使命感(ミッション)や構想(ビジョン)を具体的な活動を通じ成果につなげるための方法論」となる…この定義にはいくつか重要なポイントがある。第一点は、まず目標ありきであるという点だ…しっかりとした目標設定を伴うことが、戦略的思考を実践するうえでの第一歩となろう。第二点は、持続的な競争優位が求められることである…自己のみならず他者を充分意識した、長期にわたる計画的な取り組みが前提となる…第三点は、具体的に達成できるか、ということだ…自己のおかれた立場、組織・業務のしくみ・プロセスといった環境要因、さらには利用可能な経営資源などを熟慮のうえ、あくまで実現可能な戦略を立案する必要がある。(p.43-44)


①ビジョン:「何を」「なぜ」やりたいのかが明確になっているか?...
②目標:中間目標(例えば毎年の目標)が明確になっているか? …
③資源ベース:研究活動を行うのに必要な資源(研究資金、過去の蓄積、器具・試薬類、協力体制など)がどの程度確保されているのか、また確保しなければいけないのか? …
④事業群:目的・目標を達成するための実施計画(研究プロジェクト)が明確になっているか? …
⑤組織構造・システム・プロセス:上記の一連の活動は、外部からの要請(研究期間、論文や特許などの求められる成果物、倫理基準や利益相反などの遵守すべきルールなど)と適合しているか?あるいは、適合するためには何が解決されなければならないか? …(p.45-46)

・…戦略を実現するうえで重要なのは、成果を実現するためには、「何をやるのか」ではなく、「何をやらないか」を決めるという発想をもつべき…「理想」と「現実」とその「ギャップ」を見据えたうえ、どんなに小さなアクションについても、それを行う目的は何か、なぜ行う必要があるのか、止めた場合のリスクは何かについて、常に事前に、そして批判的に考える必要がある。(p.47)

・…Ph.D.に最も要求されるのは、研究課題を遂行する能力ではなく、創出する能力なのである。(p.50)

・…問題の発見・解決におけるポイントは、①問題の検討の対象や範囲をいかに的確に設定することができるか、②範囲内の諸現象を課題として表出し、深堀りや展開ができるか、そして③重要な課題や解決策を特定のうえ、結論づけることができるか…(p.52)

・実際の問題解決の場面では、課題提起型と仮説検証型、双方のアプローチを柔軟に使い分けることになる。具体的には、以下のプロセスとなる。
①課題的型アプローチで重要な課題の候補を見つけ出す
②仮説検証型アプローチで①の候補が本当に解くべき課題なのかを検証する
③重要と判断された課題を再度課題提起型アプローチで展開し、新たな重要課題の候補を見つけ出す(p.56)

・どんなに素晴らしいアイデアであっても、資金がないことには着手できない。そして、その資金は競争的に獲得しなければならない…日本学術振興会科研費審査の基本的考え方をみると「研究課題の選定に当たっては、研究目的の明確さ、研究の独創性、当該学問分野及び関連学問分野への貢献度等を考慮する…」とあり、かつ「研究成果が期待できるものを選定する」とも書かれている。申請書作成には、自分がいかにナレッジ・マネジメントに長けた人間であるかをアピールしつつ、手のうちを全部明かしてしまわない(審査員は競合相手でもあるので)という高度なテクニックが求められる。(p.60)

・ミーティングにはいろいろな目的や形態があるが、その成功の条件は一緒である。すなわち、終了時に期待された成果が得られていること、その成果が付加価値を伴っていること、その付加価値が個別検討を超えるものであること、の3点が満たされていれば、ミーティングした意義があるといえる。逆に1つでも満足されていない場合は、敢えて参加者全員が貴重な時間を共有する必要はないかもしれない。(p.61)

・…ミーティングは各人の意見や主張を戦わせる、いわば真剣勝負の場であるという自覚である。運営者は他人の時間と資源を借用する以上、ミーティングの目的と期待成果を入念に検討し、参加者の「投資」に対する「成果」を提供する義務がある。一方の参加者は、発言を通じて、そのミーティングが個別検討を上回るように努力する責任がある。(p.67)

・…本当に重要なのは、最小の資源で最大の効果を得る、すなわち生産性を最大限に高めるというマインド・セットである。(p.80)

・このように不確実な状態にあっては、目指す目標をしっかりと見据えながらも、幅広い見識をもち、チャンスの種を拾っていくのが賢明である...幅広い見識は、キャリアを柔軟に考えられるようにしてくれるだけではない。予想外の方向への研究の発展、分野融合や技術導入スピードを鑑みれば、トップクラスの研究者にとっても必要不可欠な能力であることは、随分前から指摘されていたのである。(p.81-83)

・研究能力とは違って、英語能力には客観的評価指標が確立されている。米国や英国の大学院でPh.D.を取得したといった、明らかに英語能力が一定水準以上なければもてないような経歴がある場合はともかく、そうでないのなら、自分の英語能力について評価指標を用いて履歴書に書けるようにしておくのがいいかもしれない。語学力に限らず、客観的な評価を受けられる機会があれば、積極的に利用した方がよい。例えば、競争的研究資金獲得実績は、自分の取り組んでいるテーマがどれほど重要であるのか、自分がいかにプレゼンテーション能力が高いかなどをアピールするよい手段になりうる。それ以上に重要なのは、自分の長所短所をよく知ることができるという点である。(p.84-85)

・…いくら出しても当たらないのが研究費であり、次のポストである。…それでも出すべきだということだ…民間の助成財団に関する情報は、財団法人 助成財団センターのHP(http://www.jfc.or.jp/)や同センターの出版物「助成財団 研究者のための助成金応募ガイド」をご覧になるといい…応募しなければ当たらない。当たれば自分のアイデアを実現する一歩を踏み出せる。助成者に対して説明責任を果たそうと頑張るから、成果も上がる。そして、当たらなくても確実に成長できているはずなのである。まずは、応募書類を作成してみることが肝要である。(p.85-86)

・できるだけ安心して人を採用したいと思う募集側の気持ちを理解した方が得策だとは思わないだろうか。つまり、いつでも顔と名前を思い出してもらえるようにこちらが努力するのである。(p.90)

・面接官に自分をわかってもらうためには、相手にもっと話がしてみたいと思ってもらえるようにすることが重要だ...1つは、相手をよく知ることだと思う…相手が弊社と呼ぶ、その企業のことについてよく勉強することだ。企業理念、その理念の遂行にどのような努力をしているのかといったところから、社員数や資本金、収益などの数値、さらには同業他社のことに至るまで…勉強してきてくれない人と、面接の場で突っ込んだ話をしたいとは思わない。(p.92)

・…次の段階に行く前にこれから選択しようとするキャリアのメリットとリスクを充分認識する時間をもってほしい。(p.95)

・ドクターの学生に入学を許可したりポスドクを雇用したりする場合には、何か光るモノが1つでもあれば受け入れたいと語る先生は多い。彼らはまだまだこの先大バケするかもしれないからだ。しかし、スタッフとなると話は全く別で、すべてにバランスが取れていることが必須条件という。同僚あるいは部下と上司という間柄になれば、お互いに協力して果たさなければならない責任がある。(p.96)

・まずは、研究の原動力となる好奇心(Curiosity)をもって、やり遂げるという決意を固めつつ(Commitment)チャレンジ(Challenge)し、チャンス(Chance)を逃さないこと。コミュニケーション(Communication)を怠らず、よい協力関係(Collaboration)を築いていくこと。そして、これらのことを継続すること(Continuance)です。(p.147)

永:…簡潔で読みやすい文章を作成するというのは…個人個人でかなり意識しないといけないでしょう…「起承転結をはっきりと、行間に余裕が出るくらい、短く簡潔に書きなさい」…/研究者が申請書や報告書を書くときって...目的があるわけですよね。誰が読んでも理解できる文章が理想だと思います。全く専門知識のない人が読んでもわかるくらいの文章なら、誰が読んでも納得できる。もちろん、専門家も。だから、それくらいの気持ちで書くのは重要じゃないかと思います…自分の親や専門外の知人を相手に、雑談の合間に研究について話してみることです…ほんの短い時間で、バックグラウンドのない人に話すわけですから、よほどうまく話を展開しないとついてきてくれません…そういうことを何回か繰り返していくうちに、短い時間でうまく伝えられるようになります…簡潔に話せるようになれば、書く能力も上達すると思うんですよね。それに、人に話すことで自分の考えているストーリーの弱点に気づく場合もありますから…研究者一人一人がこうやって身近な人たちに研究や研究室の実態をこまめに発信し続ければ、理解してくれる人も増えるし、科学技術にとってもいいことじゃないですか。自分だけがわかっていればいいんだ、研究コミュニティの中で話が通じればいいんだというのは、世間的には絶対通用しないです。(p.172-173)